売る|接点をつくる
この章の狙い
要点: 売れない原因の大半は、提案の質ではなく接点の数と相手の選び方にある。誰に、どの経路で、何件当たるかを先に決める。
技術を磨いても、話す相手がいなければ売上は立たない。逆に、相手さえ間違えなければ、提案が多少荒くても話は進む。
この章は、営業の入口だけを扱う。相手の選び方、調べ方、最初の一手、そして量を回す仕組みである。
- 📘 見込み客:買う可能性があり、こちらから接触できる相手。名前と連絡先が分かっている状態を指す。
- 📘 アウトバウンド:こちらから声をかけて接点を作る方法(DM、メール、紹介依頼)。
- 📘 インバウンド:相手から来てもらう方法(発信、検索、口コミ)。効き始めるまでに時間がかかる。
型7-1 誰に声をかけるかを、3つの条件で決める
「誰でもいい」で送ると、返信率も成約率も落ちる。先に条件を3つだけ決める。
⚡ 相手を絞る3条件
- 困っている — こちらが解決できる課題を、いま持っている
- 払える — その課題にお金を使える規模と余裕がある
- 決められる — その人が決裁できる、または決裁者に近い
3つのうち1つでも欠けると、話は進んでも決まらない。とくに「決められる」を軽く見ると、良い商談が最後で止まる。
実践:条件を自分の言葉で書く
抽象的なままでは、リストを作るときに手が止まる。次のように具体化する。
| 条件 | 抽象的な書き方 | 具体的な書き方 |
|---|---|---|
| 困っている | 業務が非効率な会社 | 請求書を手作業で作っている、従業員10〜30人の会社 |
| 払える | 予算のある会社 | 月商500万円以上、または広告を出している |
| 決められる | 決裁者 | 社長、または管理部門の責任者 |
← 横に動かして読めます →
右の形になっていれば、見た瞬間に候補かどうか判断できる。 判断に迷う条件は、条件として機能していない。
⚠️ 相手選びでやりがちな失敗
- 話しやすい相手(友人、同業者)ばかりに声をかける
- 大手ばかりを狙い、決裁までの距離を見ていない
- 条件を4つ以上にして、該当者がほとんどいなくなる
型7-2 3分で調べてから話しかける
調べずに送った文面は、送っていることが相手に分かる。逆に、3分調べるだけで文面は変わる。
⚡ 3分で見る5か所
- 直近の投稿や更新(何に力を入れているか)
- 事業の内容と規模(誰に何を売っているか)
- 求人の有無(増やしたい部署が分かる)
- 問い合わせや予約の導線(詰まっている場所が見える)
- 共通点(地域、出身、業種、知人)
全部は要らない。1つ具体的な事実を拾えれば足りる。 その1つを最初の連絡に入れる。
実践:拾った事実を1行にする
| 拾った事実 | 文面に入れる形 |
|---|---|
| 先週、新メニューの投稿をしていた | 「先週の新メニューの投稿を拝見しました」 |
| 求人で事務職を募集していた | 「事務の方を募集されているのを拝見しました」 |
| 予約が電話のみだった | 「ご予約がお電話のみのようでしたので」 |
褒めるためではなく、選んだ理由を示すために書く。 大げさな賞賛は、かえって定型文に見える。
型7-3 経路を選ぶ
接点の作り方には、それぞれ性質がある。確度と手間、そして出せる量が違う。
| 経路 | 確度 | 出せる量 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 紹介 | 高い | 少ない | 実績が1件でもあるとき |
| 個別のDM・メール | 中 | 多い | 相手を特定して調べられるとき |
| 発信(インバウンド) | 中〜高 | 遅く効く | 3か月以上続けられるとき |
| 交流会・イベント | 中 | 少ない | 地域や業種が限られるとき |
← 横に動かして読めます →
最初は紹介と個別のDMを並行させる。 発信は効くまで時間がかかるので、今月の売上には間に合わない。ただし始めておかないと、3か月後も同じ状態になる。
実践:今月やることを2つに絞る
4つ全部を同時に始めると、どれも量が足りずに終わる。
- 今月の売上を作る経路 — 紹介、個別のDM(すぐ効く)
- 3か月後のために続ける経路 — 発信(遅れて効く)
この2本立てが基本になる。遅れて効く経路を止めると、いつまでも足元の営業だけを続けることになる。
型7-4 量を回す仕組みを作る
接点は、気が向いたときにまとめて作るものではない。毎日少しずつ、決まった時間に作る。
⚡ 量を回す4つ
- 1日の件数を決める — 5件など、確実に終わる数にする
- リストを先に作る — 送る直前に相手を探さない
- 型と個別を分ける — 共通部分は型、1〜2行だけ相手ごとに書く
- 記録を残す — 送った日、返信、次の行動
型を使うことは手抜きではない。個別部分を書く時間を確保するために、共通部分を固定する。
実践:リストは前日に作る
送る作業と、相手を探す作業を同じ時間に置くと、探すだけで終わる。
| 作業 | 置く場所 |
|---|---|
| リストを作る(20件) | 回す枠(夕方・低い時間帯でよい) |
| 調べて送る(5件) | 会う枠の前後、または午前 |
探す作業は疲れていてもできる。 書く作業は頭が動く時間に置く。第1章の並べ方が、そのままここで効いてくる。
⚠️ 量を回すときにやりがちな失敗
- 完全に同じ文面を一斉に送る(規約違反になる場合があり、返信も来ない)
- 送った記録を残さず、同じ相手に二度送る
- 反応が悪いと3日でやめる(判断に足りる数を送っていない)
型7-5 紹介を頼む
紹介は、最も確度が高く、最も頼まれていない経路である。多くの人は「頼むと図々しい」と考えて頼まない。
⚡ 紹介の頼み方
- タイミング — 相手が満足を口にした直後(納品直後、感謝の連絡が来たとき)
- 対象を具体的に言う — 「どなたか」ではなく「◯◯で困っている方」
- 相手の手間を減らす — 紹介文の下書きをこちらで用意する
- 断りやすくする — 「思い当たる方がいなければ、お気になさらず」
2番目が要点である。「誰か紹介してください」では、相手は考えるコストを負う。 条件を具体的に言うと、頭の中で検索が働く。
実践:紹介を頼む一文
「もし、月末の請求作業で同じように困っている方がいらっしゃったら、お名前だけ教えていただけませんか。こちらからご連絡します。思い当たる方がいなければ、お気になさらないでください。」
この一文には、対象・こちらの動き・断りやすさの3つが入っている。紹介してくれた相手には、必ず結果を報告する。 報告がないと、次から紹介は来ない。
実践:最初の連絡の悪い例と直し方
同じ相手に送っても、書き方で結果は変わる。
悪い例
「はじめまして。私は◯◯というサービスを提供しております。SNS 運用、広告運用、ホームページ制作など幅広く対応可能です。ご興味がありましたら、一度お打ち合わせのお時間をいただけないでしょうか。実績も多数ございます。」
問題は3つある。誰にでも送れる文面であること、できることを並べただけで相手の得が書かれていないこと、次の一歩が大きいことである。
直した例
◯◯を拝見しました。ご予約がお電話のみのようでしたので、ご連絡しました。 同じ規模の飲食店さんで、予約の取りこぼしが月20件ほど減った例があります。 15分だけ、いまのご予約の流れを伺えませんか。不要でしたらお返事は不要です。
直した例には、選んだ理由・相手の得・小さな次の一歩・断りやすさが入っている。長さはむしろ短い。
⚠️ 最初の連絡でやりがちな失敗
- できることを列挙する(相手には選びようがない)
- 「一度お打ち合わせを」から入る(60分を求めている)
- 実績を数だけ書く(相手に関係のある実績かが分からない)
この章の型が効かない条件
規約や法令に反する形の一斉送信はしない。 各サービスの利用規約や、広告メールに関する法令に触れる送り方は、成果以前に事業を止めるリスクがある。個別に調べて送る形を守る。
実績が1件もない段階では、紹介は頼めない。 頼む相手がいないためである。この時期は、無料または低価格で1件受けて事例を作るほうが速い。ただし無料の仕事を続けない。事例が1〜2件できたら通常価格に戻す。
相手の業種によって、届く経路は違う。 SNS を使っていない業種に DM を送っても届かない。電話や紹介が主流の業界もある。経路は、相手がいる場所に合わせて選ぶ。
忙しい時期の相手には当たらない。 決算期、繁忙期、年末年始は返信率が落ちる。返事が来ない理由が時期である場合も多いので、断られたと決めつけずに時期を変えて再訪する。
⚡ 第7章の通過チェック
- 相手を絞る3条件を、自分の言葉で具体的に書いてある
- 3分リサーチで見る5か所を覚えている
- 今月の経路を2つに絞ってある(すぐ効く/遅れて効く)
- 1日の接点件数と、リストを作る時間を決めてある
次章へ
接点ができたら、次は話を聞く場面である。第5章の聴く技術を、営業の場で使う形に組み直す。次章ではヒアリングと課題定義を扱う。